気づけば、私の部屋はゴミという名の壁に四方を囲まれていました。失業し、貯金も底をつき、生きる気力さえ失いかけていた私にとって、部屋の惨状は自分の心の荒廃そのものでした。家賃を滞納し、電気も止められ、暗闇の中でただ息を潜めるだけの日々。片付けなければならないと頭では分かっていても、体は鉛のように重く、何より業者を呼ぶお金など一円もありませんでした。もう終わりだ、そう思った時、ふと、切れかけたスマートフォンの画面に表示された市の相談窓口の番号が目に入りました。昔、母が「困ったらこういう所に相談するんだよ」と言っていたのを思い出したのです。なけなしの勇気を振り絞って電話をかけると、受話器の向こうから聞こえてきたのは、驚くほど穏やかな女性の声でした。「大変でしたね。まずは、お話を聞かせてください」。私は、堰を切ったように泣きながら、自分の状況を全て話しました。恥ずかしさよりも、誰かが自分の話を聞いてくれているという安堵感が勝っていました。後日、その方が紹介してくれた支援団体のスタッフが家を訪ねてくれました。彼らは私の部屋の惨状に驚きもせず、ただ静かに「一緒に、やり直しましょう」と言ってくれました。生活保護の申請を手伝ってもらい、当面の生活費が確保されると、自治体の特別な計らいで、片付け費用も立て替えてもらえることになったのです。業者の人がゴミを運び出していくたび、私の心に重くのしかかっていた何かが、少しずつ軽くなっていくのを感じました。全てが片付いた部屋に朝日が差し込んだ時、私は本当に久しぶりに、生きていていいのかもしれない、と思えたのです。お金がないという絶望は、人を孤独にし、視野を狭めます。でも、ほんの少しの勇気で手を伸ばせば、必ず助けてくれる人がいる。あの日の電話が、私の人生を救ってくれました。
無一文の私をゴミ屋敷から救った一本の電話